できるだけいろいろなことを書く

できるだけまじめなことと、くだらないことを書きます。ファシリテーションやグラフィックレコーディングと関係あることかもしれないし、関係ないことかもしれません。(当ブログにはアフィリエイト広告を利用しています)

『リーダーが育つ変革プロジェクトの教科書』を組織開発クラスタに勧めるための記事

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この記事はnoteから引っ越してきました。

よくある光景かもしれないけれど

以前、とある場にて。それはデビッド・シベットの『Visual Leaders』を題材にして、ファシリテーションを学ぶ時間だった。同じテーブルになった男性が、仕事の悩みを語っていた。

「ランチ会とかいろいろやってるのに、まったくチームのまとまりがないんですよ……」

意識高い自己紹介をし、ご自身の組織では相当なハイポジションで(経営者だったかもしれない)という彼なのにこれはあまりに残念な発言ではないか。

「仲悪くてもランチくらい一緒に行きますよ。私の経験の中で本当に”チームになった”と感じたのは、たいへんなプロジェクトをやり遂げた時です。仕事そのものに適切に取り組むことが近道ではないでしょうか?」

私はこう言ったが、彼の中では「同じ釜の飯の仲」になってからしか大仕事に取り組むことはできないようであった。これはもう、価値観の問題だから仕方ない。その日のテーマにも納得せずに帰ったようだが、それも致し方ない。

好意的に見れば、厳しいプロジェクト(デスマーチではない。大仕事という意味)をチームが乗り切れるかどうかは誰にとっても不安なものだろう。それを乗り切るために「組織開発」というヤツが流行っているのだろうと私は認識している。たしかに大切なことだ。

ただ、こうも思う。その組織はいつになったら、目の前の課題に立ち向かえるほどに開発されているのだろうか?

さて、そこで本の紹介

数年たってもそんなモヤモヤを抱えつつ、私は『組織開発の探究』をワクチンのように読んでいた。そこに、今回の本題である『リーダーが育つ変革プロジェクトの教科書』がやってきた。 

リーダーが育つ変革プロジェクトの教科書

リーダーが育つ変革プロジェクトの教科書

  • 作者:白川 克
  • 発売日: 2018/12/13
  • メディア: 単行本
 

 「企業の変革を担う人材がいない」。多くの企業に共通する悩みですが、解決策は一つしかありません。

ビジネス変革プロジェクトを推進する中で、変革リーダーとなり得る人材を育てることです。
そんな二兎を追う「育つ変革プロジェクト」の第一人者が、具体的な事例とともにノウハウ・方法論を詳細解説しました。
特にデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業の経営層やマネジャー、プロジェクト担当者には必読の一冊です。

 出版社のPR文を読む限りは「デジタル変革(その分野だけ?)」「リーダー育成(エリート?)」のキーワードが目立ち、組織開発クラスタには刺さらないかもしれない。しかし、私のように「いわゆる組織開発のスコープからは外れるが、プロジェクトには放り込まれる人間(要は派遣の人)」にとってはこれがまさに「組織開発」そのものであるかのように見えたのだ。

この本では、プロジェクトの立ち上げ方から詳細に具体的な方法論を紹介している。プロジェクトを走らせながら「同じ釜の飯を食いつつ」仲間になっていく方法が書かれているのだ。

その内容は徹底して具体的。具体的で細分化されていて、もしかしたら即物的なノウハウ本だという印象を持つかもしれない。しかし、組織開発だとかファシリテーションだとか、その観点を一通り身につけた人が通読すればきっとそれぞれの手順やストーリーの本質が見える。やみくもに否定したり、逆に盲目的に実行したりという事態にはならないだろう。 

ツッコミ

一点ツッコミを入れるなら「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉が本文中10カ所ほど出てくるが、なんとなく、出版社の意向で入ってきた単語のような気がする。なんだかそこだけ浮かび上がって見える。
「変革」とか「改善」とか御社になじむ「変化」を表す単語に読み替えるとマイルドになってよいかもしれない。「デジタル」文脈に特化した本というわけではないので。
(昔、コールセンターSV向けの研修を作ったらクライアントが「忘却曲線」という単語を入れろとリクエストしてきた時のことを思い出した。つらかった)

専門家に届け!

なお、著者の白川克さんにはここ数年いろいろとお世話になってはいるが、べつに知り合いだからこの記事を書いているのではない。

組織/人材開発クラスタが発する、抽象的で美しい言説が刺さらない人々は一定数存在する。本業のプロジェクトを適切にやることは、そういう人々に対する最も効果的な組織開発手法であると私は信じているからだ。働く人が多様化すればするほど、目に見えないものをタンジブルな媒介によって追いかけることが必要だろう。
せっかく身につけた組織/人材開発に関わる専門性を、武勇伝を聞く「研修」や謎のワールドカフェ*1に消費してしまうのではなく、企業活動の中核にもっと活かしてほしいと願っているからこそ、この本を組織開発クラスタに届けたいのだ。

「育成型プロジェクトをつくってリーダーを育てたいんです」という方の相談に乗っていて違和感を感じることがある。彼らが思い描いているストーリーから、自分自身がすっぽり抜け落ちているのだ。特に育成部門からの相談では「自分は育つ側でも育てる側でもなく、場をつくるだけ」という感覚が透けて見える。別に怠けようとかそういうことではなく、場をつくるところまでが自分の仕事だと素直に信じ込んでいるだけなのだ。

(本書第4章「学ぶ姿勢を植えつける—社内にお手本がおらず、コンサルタントを雇えない場合」より引用。電子版で読んでいるので頁数はご容赦を)

この部分を読んでカチンと来た人には特に読んでほしい……。

つぶやき

note立ち上げてから組織開発のことしか書いてないじゃないか。よっぽどモヤモヤしてるんだと思います。次はたぶん『組織開発の探究』の感想を書きます。

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*1:ワールドカフェそのものが悪いというわけでもないので念のため。私も必要と判断すればこの形式をとる。